HIV感染におびえた数日 その3
僕は、その受診の日の夜、ホテルに泊まることにした。
麻疹だった場合、妻や子供にうつしてしまう可能性があること、そもそも、HIVの可能性が高いと感じていることもあって、冷静さを欠いていたからだ。
普段、まわりから、クールでいつも冷静と言われる自分は、もはや完全にいなかった。
そもそも最新のHIVについて、詳しい知識がない状態だったから、ネットサーフィンでもなんでもしながら、情報を得たかったこともあった。
チェックインし、部屋で服をぬぐと絶望的に発疹が身体に広がっている。
「あー、もー、あかん。麻疹であっくれー。」
「麻疹症状」「麻疹発疹」「麻疹潜伏期間」。。。「HIV初期感染」「HIV症状」「HIV寿命」。。。とにかく、貪るように検索した。
やっぱり、はしかじゃないの? いや、HIVだよ。
自分でもよくわからないもう一人の人間と会話しなながら、「はしかだよ」、
「HIVだってば」。
もー、その思考のループと落差で狂いそうだった。
気付けば朝の5時。
ホテルの部屋のバルコニーにでると、朝のよどみのない空気は凛とし、僕が健康でいれるかのようにすがすがしい気持ちにさせてくれた。
少しずつ明るくなる空は、疲れた僕を慰めるように温めてくれるような気がした。
夜が明けるまでバカみたいに飲み歩いていた懐かしくもどうしようもない学生時代の思い出がなぜかフラッシュバックしてきて、健康であることがどんなに尊く素晴らしいことなのか。。。
あー、できることなら、たった3カ月、3カ月前でいいから戻りたい。
寝よ。いくら考えても無駄無駄。寝よ。
余計体調悪くなる。明日も仕事だし。
無意識のうちにタバコに火をつけたのか、口元から吐かれた煙が苦く濃く感じて
とても気持ちが悪かった。