オサムとタケへの思い
久方ぶりに「回顧録 / 青春の想い出」の続きを更新です。
推測約数名(笑)の数少なかろうファンからのコメントに応えるべく、私、頑張って書きます。
はい。私、デビュー時の、明菜のように、雨の中、最後まで会場に残って待ってくれているファンの方のためにも頑張ります。笑
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翌日の火曜日、僕は気が進まないままだったが、重い緞帳が昇巻され、オサムの脚本に従うべく舞台が開演した。
ただ、なぜか翌日にたどり着く前に、だいぶ状況が変わっていた。
というのも、すっかり、オサムの脚本が、すべての出演者に知らさせていたのである。
少なくともチアキ本人に対してはサプライズの演出でなければならない脚本は冒頭から崩壊していた。
きっと、オサムの口からだとは思うが、遠回しにチアキの耳にそれとなく入っていたのである。
そんなことも知る由もなく、僕は朝からチアキと普段の学校生活を送っていた。
朝の授業前、
『ねえねえ、オサムくんって同じ部活の人だよね? どんな人なの?』
「え、何でオサムのこと? 」
『友達から私、オサムって人から告白されるんじゃないかって言われてて』
「・・・・」(何も言えず、黙り込む僕)
『なんか、呼出されるみたいな感じで聞いてるんだよね。なんだと思う? 何の用か知らない ?』
わぁー。ダメじゃん。オサム先生、すでにチアキに伝わってるじゃん。
『私さ、今、彼氏いるんだけど、最近、うまくいってなくて、別れようと思ってたんだ。』
急なチアキからの吐露に、僕はチアキを二度見した。
「えっ、あっ、そーなの?」
相手が誰だか知らないが、彼氏がいるという答えは、偶然にも、ここで聞き出せた僕。
なので、僕的には99% すでに任務完了なオサム。
『オサムくんってさ、背の高い人だよね?』
『私、背の高い人好きなんだよね。オサムくんって性格いいの?』
「あっ、性格 ? 性格はいいと思う。少なくとも悪くはないかなと。。。」
『そーなんだ。私、ちょつと興味あるな。オサムくん。』
「え、そーなの。」
いやいや、何ですかそれ? と思いながら、にわかに笑うしかない僕。
おいおい、ちょっとまってね。 これ、何か、変な方向への空気感流れてませんか。
またしても、すでに、フラレてはいないか俺 ?? 俺、チビす。
どっちかっていえば、チビす。
はい、背は低いほう。。
「いや、何の用事かは俺、知らないけど。なんだろうね。」
と、タヌキ芝居も甚だしい僕がそこにいた。
そして昼休み、オサムの女友達つたえに、チアキが、まんまとオサムに呼び出されるべく、「放課後に武道場の裏に来てください」ということが、伝えられた。
僕が聞いていた脚本と一つ違うところといえば、呼出し場所が、体育館裏ではなく、武道場の裏になったこと。
体育館裏は当時隣接するマンションか何かの工事がされていて、うるさいだろうからということで、オサムによって、急遽、変更されたのである。
武道場は、校舎と中庭をはさんで、校庭とは反対側に位置し、第2運動場とでもいうべき小さめな広場に隣接していて、その校地の隅々を覆うべく銀杏の木々が均等に植林された、体育館裏よりも少し解放感のある整理された綺麗な空間に存在していた。
黄色く染められた銀杏の葉の多くが、まもなくの冬の訪れを教えてくれようとして、少し肌寒い日だったことは今でも身体が覚えている。
呼出しの時間。
僕は、雨の日に部活の着替え場所として使う、校舎2階の一角の踊り場付近からオサムとチアキの対面を見守った。
帰宅部生徒と部活生徒の行動がいりまじる、少しあわただしい放課後の時間帯。
部活の練習に行かないといけない時間まで、あと、わずかな時間しかないので、僕は、ひとり、二重に焦りを感じていた。
全然、戻ってこない、オサム。
ずっとチアキと話こんでいる様子がわかる。
あー、こんなことなら、やっぱり自分で言うべきだった。と、後悔先に立たず。
そんな時、背中越しに『だーれだ?』と、両手で後ろから目をおおわれた僕。
いつか嗅いだことのある、心地よい匂いが一瞬、僕の嗅覚にささった。
『何やってるの ? 』と、聞きなれた声の方に顔をむけると、そこに何故かタケがいた。
「あ、タケ。なんでここに ?」
『なんでって? え、聞いたよ。告白するんでしょ、オサム。』
よく見ると、まわりに部活の友達が数人いて、ついでに、ひとつ上の先輩も一人いた。
よくわからないが、タケに聞くと、どうもオサムがチアキに告白するという話が一部地域に浸透していたようである。
めっちゃ、みんな知ってるやん!!
と、思ったが、僕だけ、今更ながら、脚本と認識が違うことに気が付いた。
いや、脚本どおりなのであるが、脚本通りでないのだ。
オサムの二重脚本。
「オサムがチアキに告白するって聞いてるの ? 」とタケに聞く僕。
『そうだよ。オサム、松島さん(チアキ) のこと好きって前から言ってたけど、お前、知らないの ? 』
「え~!!」
“ So Confused ! ” な僕。
人を疑うことを知らない、純粋無垢な僕。
まったくもって、いったい、何が起こっているのかよくわからなかった。
オサムさん。あの。。 えっ、? オサムさん。。。 何 ?
『お前ら、あついは、いいから、行くぞ。練習。』 と先輩。
「え、その言いぶり、先輩も、前から知ってる感じですかね。。。」
人間不信になるのかならないのかよくわからない時間帯が、僕を襲った瞬間だった。
風向きが変わったのものあるのか、微かにギンナンの匂いが風に乗って、急に鼻につきだした瞬間でもあった。
というか、いろんな意味で、とにかく気持ちが悪かった。
参りました。。
やられました。。。
私立高校の裏の展望台での出来事。
『だいたい、俺が好きなお前はなぁ、、、、』
と、オサムが言い止めた、あの言葉。
僕は、あの日以来、勝手に、オサムは、もしかして、もしかしたら、もしかすると、僕のことを好きなのかもしれない、と完全に勘違いしていた。
オサムが憎い、と思えればまだ良かったのかもしれないが、オサムに対する全ての感情が僕の中でなくなった。
僕は、その日以来、何にでもポジティブな自分の性格に無性に腹が立つようになった。
僕は、その日以来、オサムとは、長らく、直接、口を利くことはなくなった。
僕は、その日以来、ギンナンの匂いがすると、時々、今でも気持ちがわるくなる。
ただ、
それとは引き換えに、やはり、「タケの匂い」が、どうにも心地良い。と、あらためて感じた時でもあった。
そう。
あの時、偶然にも。
僕は、タケが好きだ!
と、初めてはっきりと自覚した。
チアキとオサム。
そして
タケとヒロミ。
僕の周りは、幸せそうに、まもなく、
クリスマスを迎えた。
一方、僕は、年末によくありがちな、過去の歌番組の特集をみながら、その年を越えた。
BUCK-TICKの良さはまだ理解できない
ままだったが、たまたま流れていた、
五木ひろしの「契り」
と
島倉千代子の「人生いろいろ」
が、やたらと心に滲みた年末だった。
しかし、ほんとに、人生いろいろである。
年明け、僕は一人、私立高校の先輩を訪ね、新しい恋を模索することになった。
(追記)
本当に便利な世の中ですね。
書きながら、You Tube で、検索して、あらためて聴いていたら、ノスタルジーで、泣きそうになります。