オサムの脚本
私立高校の裏の展望台に行った翌週の月曜日、ぼくは午後になってもチアキに好きな人がいるのかどうかを聞きだすタイミングを計れずにいた。
敢え無く学校が終わったその日の部活帰り、僕はオサムと普段とかわらず帰宅の途についたが、オサムが急に、チアキから聞きだすのは、自分がかわりにやろうか、といいだした。
「だいたい、聞き出すって、オサムはチアキと仲がいいわけじゃないでしょ?」
『体育館裏とかどこかにチアキを呼び出してさ、聞き出すってのでいいんじゃない?』
「いやいや、そんな、いきなりあんまり知らないやつからよばれて、体育館裏にって、不信感の塊で怪しいだけじゃん。素直に、一人で、そんな、はい、そうですかって、くると思う?」
『俺、そんなに怪しい?』
「いや、そういう変な意味じゃないけどさ」
『ならわかった。それなら、俺がチアキに告白する!』
「あ? はあ? なんで?」
『俺が告白するじゃん。そしたらさ、俺、たぶん、撃沈じゃん。』
『もしその場で玉砕されなくてもさ、少なくとも、ちょつと考えさせてってなるとは思うんだよね。』
『そしたらさー、≪えっ、もしかして、松島さん、好きな人いるんですか?≫、っつて、聞けるじゃん。』
(※松島とは、チアキの名字である。)
『名案じゃね?』
自信満々に自己完結するオサムをみていると、無性に腹がたつというか、あきれた。
しかしながら、是が非でもオサムがそれを譲ろうとしないから、僕は、男らしくないことに、ミイの時のミサオのように、オサムの申し出を受け入れてしまった。
男らしくないというか、女らしくないというか、そのどちらでもないというかは、僕のその時のセクシャリティからは適切に表現できないが、「人として潔くない」、ということだけは認識していた。
そもそも、現在では、そのような表現自体が、不適切であるとされるから、時代とともに言葉の意味合いも変わり、言葉は生きている、ということを実感する。
「そしたら、いつ聞くの?」
『明日でいいじゃん』
「え、明日? 早くない」
『時間おいてもいっしょじゃん。そんな変わらないって。』
「もし、好きな人いるとかなったら、どうするの? 」
『それが誰か聞けばいいじゃん。そんで見定めてやるしかないな。』
『そんで、お前のほうが良さそうだったら、奪い取ればいいじゃん。』
「すげー、勝手。」
「ていうか、オサム、いつからそんな性格?」
「もしオサムが俺の立場だったら、オサムはそんなことするわけ?」
『やらねー。』
「なんだよ、もー。他人事と思って遊んでんじゃんよ、やっぱり。」
『いいじゃん。はっきりさせよーぜ。』
『だいたい、俺、お前がウダウダ毎日言ってるの見たくないんだよ。』
『だいたい、俺が好きなお前はなぁ、、、、』
『あ、いや、なんでもないや。』
『まー、いいじゃん。それで、いこ。それで。なぁ? 』
「わかったよ。もー、それで行くよ。任せた。オサムに。」
僕は、オサムの語気が少し荒く強かったことをその時は全く気にしなかった。
「ねー、もし、好きな人いないってなった時、どうするの?」
『え、あいつが、松島さんのこと好きだって、言ってるから付き合ってよ。っていえばいいじゃん。』
「直球勝負だねー。それなら、俺が言うよやっぱり。なんか、人づてに言われるのあんまりいい気しないし」
といいながら、僕はミイとミサオのシーンを自分に重ねて思い出していた。
『いやいや、いいから、いいから。俺に任せてよ。』
ほんとに、一歩も引かないオサムがそこにいた。
「わかったよ。」
そして、翌日のその時を迎えることとになった。