純愛とデリート
ミイとの恋愛 ? ていうか、強制恋愛? ん、それとも、疑似恋愛? とでも言うべきか? のお付き合いがはじまって1週間。
タケがとうとう僕とミイの後をつけて一緒に帰ることはなくなった。
タケは僕が少し背伸びして背の高いミイの頬にキスするシーンを、実は、毎日、面白がっていた。
そして、僕からのキスが、ミイの頬から、いつ、唇へ移行するのか、というタイミングを見守っていたようだ。
しかしながら、タケは翌週から不在となった。
なんと、同じクラスのヒロミから告白されて、それを受けたのだ。
ヒロミは中学最初の模試で女子の中で学年一位の才女。しかも、スタイルもよく、目のぱっちりとしたカワイイ子だったが、背筋もピンとして清廉な感じのいわゆる近寄りがたいタイプだった。
なんで、そんな子が自らタケに告白 ? と思ったが、理由は案外単純だった。
タケは、色黒であったせいか、タケとは別に、アパちゃんというあだ名があった。
このあだ名は、いわゆるアパルトヘイトからきているから、いまでいうと、これはアウトのあだ名である。
ただ、タケも、クリクリした目で、かわいい顔をしていて、いわゆる人気者の部類であったから、アパちゃん、自体がいじめにあたるようなあだ名では実質的になかった。
タケの父親は製薬会社に勤めていて、何の分野かは知らなかったが、新薬を開発する基礎系の研究者、そして、タケの母親は、とある医学部の大学教授ということもあり、遺伝子的に、タケもおのずとIQが高い。
もちろん、タケも学年でトップクラスの成績で優秀だった。
実際にタケは後に東京にある旧帝大をうけて合格するが、自分のすきな分野の先生が関西にいるという理由で最終的には「おいでやす」の旧帝大に進学した。
そんな感じで、クラスでかわいい男の子で頭がいい、というのが、ヒロミの告白の理由だったみたいだ。
実は、タケもヒロミにもともと少し好意があったようで、僕とは全く違い、彼の恋は、まさに純愛へとその後発展を遂げていった。
そして、タケとヒロミは登下校をいっしょにするようになったのである。
なんとなくだが、僕に、軽い失恋の思いのような意識があったことは言うまでもない。
タケに特別な好意があったわけではないが、なんとなく、獲られた感が強かった。
そして、タケが僕の後をつけなくなってから数日後、僕の恋愛も急展開を迎えることになった。
ある朝、下校ではなく、登校のために、はじめてミイを家に迎えに行ったときにそれは起こった。
家に迎えにいくと、なぜか、あの、ミサオ がいたのである。
嫌な予感満載。
そして僕は、すがすがしい朝の太陽が昇るなか、ミサオ から驚きの一言を言い渡された。
『ミイは○○くんのことを好きじゃないから、もう家に来ないでくれない。』
「え。。。。。。」しばらく沈黙な僕。
「は、今、なんとおっしゃいました? 」と心の中で思ったが、状況がよくつかめないままだった。
そして、ミイ 自身から恐ろしい一言が追加された。
『私、別に○○くんのこと最初から好きじゃないから、もう、私につきまとわないでくれない。』と。
「最初から、好きでない???」 とは、「どういうこと・・・」
「つきまとう」って何?
だいたい最初に、俺、断ったじゃん。。
何、その勝手さ。
俺、何か悪いことした?
と、思いつつ、心が泣きそうな言葉をあびさせられながら、僕の儚くほろ苦い最初の中学恋愛はあっさりと幕を閉じた。
享年9日。
殉職でもない。暗殺でもない。
まさに「削除」された感じ。
そして、その日からしばらく、僕のさびしい登下校が始まったのである。
気がつけば、美しく長い藤棚の紫の連続もすっかり姿を変え、見事に咲いたあの全ての紫は、すっかり散り果てていた。
そして僕の中の紫は、咲くまでもなくその役割を終えた。