タケの匂い
チアキのことが好きだと気付いたあの「おでこタッチの日」から、僕は毎朝通学の途中に、タケにチアキのことをどう思うか相談していた。
本当は下校途中に長々とぶらぶらゆっくりめに歩きながらタケに相談したかったが、下校時のタケの左側は、タケの彼女であるヒロミがいつも占領しているからそれは難しかった。
タケの左がヒロミで、僕が右ね !
という悪ふざけを一度だけタケの右腕でできた輪っかに僕の左腕を通して、お茶目に言ってみたことがあるが、ヒロミの冷たい視線と、タケからの、「やめろよ、気持ち悪いなぁ」と少し舌打ち混じりに発せられた小声が、マジ切れになる手間の空気だと瞬時に感じたので、僕はすぐさま退散した。
ただ、ふざけて組んだタケの右腕に身体を寄せた時のタケの部活終わりの心地よい汗臭さとタケの家庭の匂いがしみ込んだ学生服のシャツの香りが、僕のセクシャリティを形成する遺伝子たちにほのかに届いた。
幸い、タケとヒロミは、つきあいはじめこそ登下校をいっしょにしていたが、夏休みがあけると下校だけをいっしょにすようになっていたので僕的にはタケに相談できる時間が朝に少しだけでも確保できた。
チアキに、
「今、好きな人とかいるの ? って聞いてみたほうがいいかな ?」
『どうかなー。BUCK-TICKの人が好きって言われるんじゃない。』小笑
なら、
「俺、お前のこと好き。付き合って欲しい。って、単刀直入に告白したほうがいいかな ?」
『どうかなー。私の彼氏は、BUCK-TICK なのって言われるんじゃない。』小笑
ちょつとー、タケ!、ちゃんと相談にのってよー、って思いながら、まあ、どうにも良い解決方法がでるわけもなく、軽くふざけあいながら、僕はそのタケとの空気感を楽しんでいた。
そもそも、朝陽が昇り、すがすがしい空気がいきわたった、一日の始まりとなる朝の一発目に話し合う内容の会話でもなかった。
ただ、タケにふざけて腕をくんだあの日以降、毎日の登校の中で、タケの冗談にツッコミをいれたりしていたが、ときどき、そのツッコミの中で、さりげなくタケの身体に触れながら、タケの心地よい香りを探していた。
ちょうどそのころ、僕は、オサムという部活の男の子とほぼ毎日下校していた。
もちろんオサムにもチアキのことは、タケへのそれと同じように相談した。
オサムは僕らの世代のいわゆるエースで、その後大学までスポーツだけの実力で高校も大学も学費を払うことなく成長していったいわゆるスポーツエリート。
僕とオサムは、初めての夏合宿が終わった後、ときどき、一緒に、私立高校のT先輩のところに遊びにいこうと話していて、そして、久しぶりに、T先輩のところに週末訪問することになった。